相続と登記
売買や贈与などによって、不動産の所有者が変わったときには、普通は名義の書き換えを行います。
つまり所有権の移転登記です。
当然、相続が発生した場合にも、不動産の所有者は変わります。
しかし、相続の場合には、名義の変更がなされず、そのまま長期間放置されることが珍しくありません。
家を買って、その家の名義を売主から買主に変更しないなどということは、通常はあり得ないのに、相続の場合にだけ、なぜ名義の書き換えが行われないことがあるのでしょうか。
それは相続の場合は二重譲渡の危険がないからです。
二重譲渡の問題
もし不動産を売買した後、名義の変更を行わないとすると、どうでしょう?
売主は未だ不動産が自分の名義であることを利用して、第2の買主にそれを売却することが可能になります。
もちろん犯罪ですが、理論上は可能です。
第1の買主としてはそのようなことをされてはたまりませんので、売買代金を支払うのと引き換えに、名義の変更を要求することになります。
したがって、売買の場合には、必ず名義の変更が行われるわけです。
しかし、相続ならば、亡くなった方が相続人以外の人に不動産を譲渡するということはあり得ませんので、不動産を相続した人は、必ずしも直ちに名義の変更をしなくても良いわけです。
遺贈と登記
一方で、遺言があって、その遺言の中で、相続人以外の人に対して不動産を譲ったというようなとき、これを遺贈と言うのですが、その場合には間違いなく名義の変更が行われます。
なぜなら、遺贈の場合には二重譲渡の危険があるからです。
遺贈と二重譲渡の具体例
例えば次のようなケースです。
A氏は「愛人のK子にマンションを遺贈する」という遺言を残して亡くなりました。もちろん遺言に「愛人の」とは書きませんが…。
そのマンションというのは、A氏の名義ではあるのですが、A氏がK子のために買ったもので、K子はずっとそこに住んでいたとします。
K子としては、その遺言がありましたから、マンションは自分のものになったと安心して、A氏の死後も以前と変わらず暮らしていました。
一方A氏にはBという息子がいたのですが、Bは愛人なんかに父親の遺産が渡るのを我慢できません。
そこで調べてみると、そのマンションは名義の変更がされておらず、登記簿上は未だに亡くなったA氏の所有となっています。
Bはそれをいいことに、相続登記をしてそのマンションを自分の名義に変更した上で、金持ちの友達に安く売却し、売買を原因として、その友達の名義に変更してしまったのです。
第三者対抗要件
この事例では、「A氏からK子への遺贈」と「Bから友達への売買」という、2つの譲渡があったと言えます。
相続人は、亡くなった人の権利と義務を全て承継することになりますから、A氏と息子のBは、2人で1人、同一の立場と考えるわけです。
すると、「A氏=B」から「K子」と「友人」へ二重譲渡があったと考えられます。
その結果、「登記をした友達vs登記をしなかったK子」という図式が成立します。
二重譲渡の場合、どちらが先に譲渡されたかではなく、登記をした方が優先されますので、K子は登記をした友達には勝てず、残念ながらマンションを手放さなくてはならないのです。
このように、不動産に関して登記を備えることを第三者対抗要件と言います。
遺贈の場合はこういうことが起こりうるので、登記をしておかないと思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があるのです。